報告書｜気候変動が金融システムを揺るがす時代

気候変動が金融システムに与える影響？そんなのあり得ないと思うかもしれませんが、実はこれが意外と大事な話なのです。例えば、2012年のハリケーン・サンディ。ニューヨークのウォール街が停電で閉鎖されたのを覚えているでしょうか？これは、金融業界が「天気も経済の一部」と認識した瞬間でした。極端な気象が経済活動に及ぼす影響がこれまで以上に強くなっており、金融システムもその影響を無視できないのです。

ニューヨークだけではありません。ロンドン、シンガポール、香港、上海、東京など、世界の金融都市は海面上昇や暴風雨の影響を受けやすい港町です。温暖化が進むことで、これらの都市はますます脆弱になり、自然災害が金融活動を脅かす可能性が高くなっています。

しかし、気候変動によるリスクは単なる暴風雨や洪水にとどまりません。前イングランド銀行総裁・前金融安定理事会議長のマーク・カーニー氏は、気候変動が引き起こすリスクを三つに分類して説明しています。まず第一に、「保険の機能不全」です。保険は社会の減震器のようなもので、自然災害が発生した際に被害を軽減します。しかし、気候変動が進み、災害が頻発すれば、保険会社は支払い能力を維持できなくなります。例えば、サンディのような大規模な災害では、保険金の支払いが増加し、保険制度が崩壊する可能性が高まります。

第二に、「資産の座礁リスク」です。これは、温暖化を防ぐために化石燃料資産が無価値になるリスクです。もし世界が温暖化を抑える方向に進むと、現在の化石燃料資産は利用できなくなり、石油やガスの企業は28兆ドルの損失を被る可能性があると予測されています。これは、石油王も泣きたくなるような大きな損失ですね。

第三に、「訴訟リスク」。温暖化を引き起こしてきた企業は、環境損害を賠償するために訴訟に巻き込まれるリスクがあります。実際、アメリカでは政府に対して温室効果ガスの削減を怠ったとして訴えられることが増えており、これらの訴訟が金融市場にも影響を与える可能性が高いです。

気候変動がもたらすリスクは、単なる環境問題ではありません。それは、世界の金融システムに深刻な影響を与えつつあり、私たちの経済活動にも直結しています。中央銀行や金融機関も、この問題に真剣に取り組む必要があるのです。

- 参考資料（英語） -

Mark Carney: Breaking the tragedy of the horizon – climate change and financial stability